デュピルマブ治療で鼻腔内の菌バランスが改善 ― 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の新たな可能性
2025.06.08イントロダクション
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎は、鼻づまり、鼻水、後鼻漏、嗅覚障害などの症状を引き起こし、日常生活の質を大きく低下させる疾患です。特に「2型炎症」と呼ばれる免疫の偏りが関係するタイプでは、従来の治療ではなかなか改善が見られないケースも多く、治療選択肢が限られていました。
一方、鼻の中には「鼻腔内マイクロバイオータ」と呼ばれる常在菌が存在し、健康な状態を保つうえで重要な役割を果たしています。近年、このマイクロバイオータのバランスが乱れることが、慢性副鼻腔炎の悪化と関係していることがわかってきました。
研究の背景と目的
本研究では、抗インターロイキン-4受容体抗体であるデュピルマブ(商品名デュピクセント)の治療が、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の患者において、症状の改善だけでなく、鼻腔内の菌バランスにもどのような影響を与えるのかを調査することが目的とされました。
研究の方法
本研究では、デュピルマブ治療が鼻腔内および腸内の常在菌(マイクロバイオータ)に与える影響を検討するため、16S rRNA遺伝子解析を用いた菌叢の解析が行われました。鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の患者において、デュピルマブを2週間ごとに皮下注射し、治療前、28日後、90日後、180日後に鼻腔と腸内のサンプルを採取しました。比較対象として、同様の手順で未治療患者および健康な対照者にも同様のサンプル採取が行われました。
結果
最終的に解析対象となったのは、デュピルマブ治療群が24名(、未治療群が10名、健康対照群が11名でした。治療前の慢性副鼻腔炎患者では、健康な方と比較して「カティバクテリウム」や「ロウソネラ」などの有益な菌が少なく、菌の多様性が低下していました。デュピルマブ治療により、これらの菌が増加し、健康な人に近いバランスに改善しました。特に「コリネバクテリウム」や「ドロシグラヌルム」の増加が顕著でした。一方、腸内のマイクロバイオータには有意な変化はみられませんでした。
考察
この研究から、デュピルマブによる治療は鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の症状を改善するだけでなく、鼻の中の菌のバランスを整える効果がある可能性が示されました。つまり、「炎症を抑える」だけでなく、「健康な菌環境を取り戻す」という新たな作用があることがわかります。
当院では、デュピルマブの導入を適切な時期に行うことで、より早期の症状改善を目指しています。また、鼻腔内の状態を継続的に観察し、手術や内服治療と組み合わせることで、鼻の状態をできるだけいい状態へ導く治療を目指しています。
鼻茸や鼻づまり、嗅覚障害でお困りの方は、まずは一度ご相談ください。治療選択肢が広がっている今こそ、あなたに合った治療法を見つけるチャンスです。