嗅覚障害

  • #専門とする疾患
  • #よくある症状について
  • 嗅覚障害とは

    • 「何のにおいも感じなくなった」
    • 「いつもの食事が美味しくない」
    • 「味つけに自信がもてず、家族に聞いている」
    • 「友人と歩いていて、自分だけ花のにおいがわからなかった」
    • 「火事を起こしそうになった」
    • 「これまでと違ったにおいに感じる」
    • 「どのにおいを嗅いでも、煙のにおいがする」

    嗅覚障害をもつ患者さんが受診した時の言葉です。このように、においを正確に嗅げないことを嗅覚障害といいます。実は、嗅覚障害のある方は人口の22.2%も存在していると報告されており、決して稀な病気ではありません(Am J Rhinol Allergy. 2021)。嗅覚障害により、日常生活で次のような困難が生じることがあります。

    食事の楽しみの減少

    嗅覚は味覚と密接に関連しているため、食べ物の風味が十分に感じられなくなります。これにより、食事が以前ほどおいしくなく感じることや、生鮮食品の購買意欲が減ること、さらには食欲が減って体重が減ることがあります。

    安全上のリスク

    ガス漏れ、煙、食品の腐敗など、危険を知らせる警告のにおいを感じることができなくなるため、日常生活における安全が損なわれる可能性があります。

    社会的な影響

    においや食事の話題についていけないことや自分の体臭や香水の匂いがわからなくなることで、他人との交流において不安を感じたり、自信を失ったりすることがあります。

    嗅覚障害の分類

    においは、①〜③の段階を経て感じることができます。

    (詳しく知りたい方は「においを嗅ぐメカニズム」をご参照ください)

    嗅覚障害は、その3つの段階に準じて分類されています。

    においのメカニズム障害部位に準じた嗅覚障害の名称
    ①におい分子が鼻にある嗅粘膜に届く気導性嗅覚障害
    ②嗅粘膜が刺激を受け、電気信号に変換する嗅神経性嗅覚障害
    ③脳に送られてきた電気信号を処理する中枢性嗅覚障害

    嗅覚障害の原因疾患

    異常が生じる部位①〜③のそれぞれに代表的な病気としては、

    気導性嗅覚障害:慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、鼻副鼻腔腫瘍など

    嗅神経性嗅覚障害:長期の慢性副鼻腔炎、新型コロナ感染症や風邪などのウィルス感染など

    中枢性嗅覚障害:頭部外傷による脳挫傷、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患など

    があります。慢性副鼻腔炎がおよそ50%、ウィルス感染に関与するものが20%を占めます。慢性副鼻腔炎による嗅覚障害で注意しなければならないのは、最初は鼻水や鼻茸で嗅粘膜に空気が到達しない①の気導性嗅覚障害であったものが、嗅粘膜に炎症が長期に続くと嗅神経細胞が減少し②の嗅神経性嗅覚障害に変化していくということです。そのため、放置せずに薬物療法や手術などの治療を行なっていくことが重要になります。

    嗅覚障害の検査

    問診

    においがいつからわからなくなったのか、においをどのように感じるか、どのような時に自覚するのか、などを詳細に聞くことで、嗅覚障害の原因を推測していきます。

    基準嗅力検査

    スタッフがにおい液を濾紙の先端に浸し、患者さんに渡します。その先端を鼻先1cmに近づけてにおいを嗅ぎます。鼻から空気を吸い込む経路でにおいを嗅ぐので、オルソネーザル経路での嗅覚の検査になります。5つのにおい液を、それぞれ濃度の最も薄いものから濃いものを嗅いでいき、においを感じた最小の濃度の平均値と、どのようなにおいか表現ができた濃度の平均値を測定します。嗅覚障害の重症度判定に役立ちます。

    静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)

    腕の静脈にアリナミンを注射します。そのため、アリナミンテストと呼ばれることもあります。注射をしてから、そのにおいを感じるまでにかかった時間と、においが消失するまでの時間を測定します。体の中からにおいがあがってくる経路でにおいを嗅ぐので、レトロネーザル経路による嗅覚の検査になります。

    内視鏡検査

    内視鏡を鼻の中に挿入し、鼻腔の状態を観察します。内視鏡は細いため、検査による痛みはほとんどありません。鼻中隔の弯曲、鼻の粘膜の肥厚、鼻茸などの病変がにおいを運ぶ空気の通り道の妨げになっていないかなどを確認します。

    副鼻腔CT

    鼻腔の構造や副鼻腔の状態の確認を行います。新型コロナ感染症後の嗅覚障害の患者さんでは、嗅粘膜が存在する嗅裂が閉鎖した所見が見られることがあります。また、内視鏡検査で観察することのできない副鼻腔の状態を把握することができるため、副鼻腔CTは嗅覚障害を診断する上で重要な検査になります。

    嗅覚障害の治療

    慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、ウィルス感染による嗅覚障害など原因を診断し、それぞれの原因疾患の治療に準じて治療を行います。

    慢性副鼻腔炎:慢性副鼻腔炎で嗅覚障害を伴う場合は、好酸球性副鼻腔炎を疑います。喘息を合併していることが多く、当クリニックではアレルギー専門医、呼吸器内科医による診療で同時に治療を行うことで治療の相乗効果を高めています。薬物療法で改善しない場合は、手術を提案することもあります。

    アレルギー性鼻炎:第2世代の抗ヒスタミン薬、ステロイド点鼻薬などで治療を行い、におい分子が嗅粘膜に届くよう粘膜の腫れをおさえます。

    ウィルス感染:風邪をひいた後に発症することが多いことから感冒後嗅覚障害と呼びます。治療には当帰芍薬散、ビタミンB12(メコバラミン)などを使用することで、障害を受けた神経の再生を促進させます(Auris Nasus Larynx. 2023)。未治療の場合では、発症1年後での改善率は32〜36%と言われていますが、投薬を行うことで改善率が47〜56%に上昇します。

    また、近年では嗅覚トレーニング(嗅覚刺激療法)というリハビリテーションが注目されています。2009年にドイツのHummel先生がウィルス感染後の嗅覚障害患者に対する効果を報告しました。4種類のにおいを1日2回10〜15秒間嗅ぐことで嗅覚が刺激され、嗅覚障害が改善しやすくなります。さらに、ウィルス感染後の嗅覚障害患者だけでなくその他の原因疾患に対しても効果があることが報告されています。とても興味深いことに、嗅覚トレーニングを行うと、あたかも筋力トレーニングを行なったかのように脳の一部である嗅球が肥大します(Brain Imaging Behav. 2017)。

    現在、日本人向けの嗅覚トレーニングを確立するための研究が行われています。院長は、嗅覚刺激療法検討委員会の一員として研究に参加しています。研究への参加をご希望される方は、受診時にお申し付けください。

    診療予約はこちら
    instagram x
    24時間
    WEB予約
    お電話はこちら