アレルギー性鼻炎・鼻づまりに対する日帰り手術
鼻づまりを引き起こす疾患
鼻づまりを起こす代表的な病気をご紹介いたします。当院で実施する鼻づまりに対する薬物療法や手術療法は全て保険診療です。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、鼻づまり、頭痛、鼻水がのどに垂れる(後鼻漏)などのつらい症状を引き起こします。特に鼻づまりは、寝ている途中で目が覚めてしまうなど睡眠の質や集中力を低下させ、仕事や勉強の捗りに影響を与えることが指摘されています。ダニや花粉などの抗原回避や様々な薬物療法を行っても症状が改善しない場合、副作用で薬が使用できない場合には、手術を検討します。
(詳しく知りたい方は「アレルギー性鼻炎」をご参照ください)
鼻中隔弯曲症
鼻中隔は、鼻腔を左右に分ける仕切りのことをいいます。鼻中隔は、主に鼻中隔軟骨、篩骨垂直場板、鋤骨という軟骨や骨からなり、外枠の骨に囲われた中で、軟骨が後から成長するため弯曲や棘が生じるといわれています。鼻中隔の弯曲が強いと、鼻づまりの原因になります。
薬剤性鼻炎
特に多いのは、点鼻血管収縮薬の使い過ぎです。いわゆる市販の点鼻薬は血管収縮薬を含んでおり、鼻の中にスプレーをすると血管収縮作用で下鼻甲介などの粘膜が収縮し、一時的に鼻づまりが改善します。しかしその後、リバウンド現象で粘膜の腫脹が以前より強くなり、鼻づまりが悪化します。さらに、繰り返し血管収縮薬を使用すると、血管収縮作用の効果が短くなりますので、スプレーを頻回に使用しないと鼻づまりを抑えられない状態になってしまいます。点鼻血管収縮薬の使用を中止しても、厚くなってしまった下鼻甲介粘膜が戻らない場合は手術を検討します。
慢性副鼻腔炎
副鼻腔に炎症が長く続くと、鼻水や鼻づまりの症状が出現します。喘息を持っている方では、鼻茸が鼻の中にできやすく鼻づまりや嗅覚障害の原因になります。
(詳しく知りたい方は「慢性副鼻腔炎」、「好酸球性副鼻腔炎」をご参照ください
当院での日帰り手術
学会や大学病院で鼻の手術を指導する資格、鼻科手術指導医を持つ手術のスペシャリストである院長が手術を行います。鼻科手術指導医とは、2020年により安全で確実な手術が施行されるよう発足した指導医制度です。過去2年間に鼻科手術を200件以上の実績があることや、鼻科に関する論文が10編以上あることに加えて、匿名による手術のビデオ審査があります。手術のビデオ審査では、暫定指導医2名による採点が行われ、安全な手術操作を行っているか、確実な手術が行われているかが審査されます。2024年4月現在、鼻科手術指導医を有する医師は全国で8名のみです。
当院での鼻の手術は、全身麻酔で手術を行うため、手術中に痛みや不安はありません。経験豊富な麻酔科医師が手術中の全身の様子をモニターで細かくチェックを行います。医師は術野に集中して手術を行うことができます。 当院では、非常に鮮明な4Kシステムの内視鏡を用いて鼻の中で手術を行います。従来のフルハイビジョンの解像度は約200万画素ですが、4Kシステムでは解像度が約830万画素と約4倍となり、色域が広く色鮮やかに表現されるため、非常に見やすい画質で手術を行うことができます。
鼻中隔矯正術(内視鏡下鼻中隔手術)
鼻中隔とは、左右の鼻腔の間にある仕切りのことです。内視鏡を用いて左の鼻の鼻中隔前端から8mm程度の場所で鼻中隔の粘膜を切開します。粘膜と軟骨、骨を剥離し、弯曲している軟骨や骨を部分的に切除します(イラストのピンク色の箇所)。切開した粘膜を2〜3ヶ月で溶ける糸で縫合し、止血と傷の治りを高めるためにプラスモイスト®などを鼻の中につめます。従来のガーゼでは、鼻の粘膜と固まってしまい、抜去する際に痛みが強かったですが、当院で使用するプラスモイスト®などは、鼻水と混ざり合うことでゼリー状になるので、粘膜をほとんど傷つけることなく抜去ができます。当院では、できるだけ痛みが少なくなるような工夫をしています。
下記の一部の写真は、2023年に掲載された「専門医のためのアレルギー学講座 アレルギー性鼻炎 手術 アレルギー性鼻炎に対する下鼻甲介手術, 鼻中隔矯正術, 後鼻神経切断術」の内容から抜粋しています。院長が、他のアレルギー疾患が専門である医師のために学会誌アレルギーに執筆した論文です。
下鼻甲介手術(内視鏡下鼻腔手術Ⅰ型)
粘膜のヒダである下鼻甲介などが厚い場合を肥厚性鼻炎といいます。当院の肥厚性鼻炎に対する下鼻甲介手術は、粘膜の表面のダメージを最小限に抑えた粘膜機能を温存する下鼻甲介手術を採用しています。下鼻甲介手術には、下鼻甲介の処理をする方法や部位によって図に示す(Ⅰ)から(Ⅶ)などの様々な方法に分類されています(アレルギー.2023)。
当院では主に、粘膜下組織に高周波凝固装置を刺入させ組織を凝固変性させる方法(Ⅱ)、粘膜下組織をマイクロデブリッターや鉗子で切除する方法(Ⅲ)、下鼻甲介骨を除去する粘膜下下鼻甲介骨切除術(Ⅳ)、外側の下鼻甲介粘膜および下鼻甲介骨を除去する方法(Ⅴ)の下鼻甲介手術を採用しています。これらの手術は粘膜の表面への傷がわずかであるため、粘膜温存手術と言われています。 従来の下鼻甲介に行うレーザー手術では、粘膜の表面を焼灼するため手術後に痂皮の付着が多いですが、当院で採用する(Ⅱ)から(Ⅴ)のなどの粘膜温存手術では、痂皮の付着がごく少量です。さらに、レーザー手術に比べて、鼻づまりの効果が長く続くことがわかっています(Am J Rhinol Allergy. 2023)。内視鏡検査とCT検査を行い、鼻腔の形や下鼻甲介の状態を確認します。鼻づまりの原因が粘膜の厚さからくるものであれば下鼻甲介粘膜下切除術(Ⅲ)、骨の厚さからくるものであれば粘膜下下鼻甲介切除術(Ⅳ)など、鼻の状態に合わせて手術方法を選択します。
内視鏡下鼻副鼻腔手術(Ⅱ型)
通常の中鼻甲介は、骨の周囲に粘膜があるのですが、この骨の中に空気を含むタイプがあり、中鼻甲介蜂巣とよびます。中鼻甲介蜂巣の外側をメスで切断し、中鼻甲介を細くすることで空気の通り道を広げます。
後鼻神経切断術(経鼻腔翼突管神経切除術)
複数の抗原に反応をしている場合に行う手術です。鼻腔内に分布する後鼻神経は蝶口蓋孔という穴から下鼻甲介を中心に鼻腔内に分布します。後鼻神経は、自律神経、副交感神経、知覚神経からなる神経で、くしゃみ・鼻水・鼻づまりに関与します。後鼻神経を切断することで、くしゃみ・鼻水・鼻のかゆみ・後鼻漏・咳などのアレルギー反応や過敏な反応を改善します。後鼻神経には、においに関わる神経は含みませんので、後鼻神経を切断しても嗅覚が損なわれることはありません。図では、蝶口蓋孔(▲)という穴から後鼻神経が動脈と一緒に出てくるところを確認し、器具を用いて神経(△)のみを切断している様子を示しています。
手術後の経過とケア
手術後1〜2日目に鼻に入れた詰め物の一部を取り除きます。 ご自身で鼻洗浄1回200mLを1日3回ほどで行っていただくことで、傷が常に濡れた状態になり、傷の回復を高めます。また、鼻の入り口には4分割した綿球をいれることで、鼻の中を保湿し手術後の痛みを減らすことができます(Auris Nasus Larynx. 2019)。術後は鼻づまりがありますが、1週間ほどで徐々に改善していきます。
手術のリスクと合併症
出血
粘膜を切開する際に、切開した部位から少量の出血があります。当院では、メスではなくサージトロン®によるラジオ波を使用し、微細な切開・凝固を行うことで出血量を減らす工夫をしています。手術後に少量の出血があり、鼻の入り口に入れる綿球を適宜交換します。徐々に手術後の出血量は減少していきます。非常に稀に術後2週間頃に出血がありますので、安静にする期間や鼻洗浄の方法をお守りください。後鼻神経切断術では、蝶口蓋動脈を切断しない方法で神経を選択的に切断する方法をとることで出血のリスクを減らしています。止血が必要な場合は、外来で鼻に詰め物をすることや、出血部位の焼灼止血を行います。当院もしくは連携先で対応いたしますので、ご安心ください。バックアップ体制として日本医科大学付属病院、日本医科大学武蔵小杉病院などがあります。
疼痛
手術中は全身麻酔での手術のため、痛みは感じません。手術後の痛みを減らすように、手術が終わる前に痛み止めの点滴を行うことや、痛みを感じる前に定時で痛み止めを使用することで痛みを最小限にしています。0点を「全く痛くない」、10点を「考えられる最大の痛み」とした場合、術後の痛みは約2点です。手術2時間後が痛みのピークになることがほとんどです。
発熱
手術後1~2日程度、手術による影響で37~38度程度の発熱を認めます。非常に稀ですが、40度以上の高熱を認めた場合は、感染を疑い早急に対応致します。
鼻づまり
手術後には鼻の全体に綿やスポンジが入っているため、1~2日は鼻で呼吸することができません。手術1~2日後に詰め物の一部を抜去すると鼻で呼吸ができるようになりますが、手術の影響で鼻の粘膜が腫れているため1週間ほどはすっきりしません。小さくした綿球を鼻の入り口にいれることで、鼻呼吸を保ちながら鼻腔内を加湿すると、傷の治りが速くなり鼻づまりの期間も短くなります。
鞍鼻
鼻を支える軟骨や骨をとると、鼻が低くなることがあります。当院では、術前にCTで鼻骨と篩骨上顎板の関係を確認し、切除範囲を調節することや、鼻を支える枠、L-strutを保護する手術を行うことで鞍鼻の発生を防いでいます。
鼻中隔穿孔
鼻中隔の弯曲が強く、鼻腔内でトゲのように軟骨や骨が突出していることがあります。そのような場合は、軟骨や骨を摘出する際に粘膜に穿孔が生じることがあります。当院では、粘膜が穿孔した際には、マニセップス®という鼻中隔を縫合する特殊な持針器を用いて縫合し、鼻中隔の粘膜をシリコンプレートで保護することで穿孔の予防をしています。
鼻中隔血腫
鼻中隔の中に血液がたまると血腫ができることが稀にあります。当院では、手術中にサージトロン®などの凝固止血ができる器械やマニセプス®という鼻中隔専用の特殊な持針器で鼻中隔を縫合することなどで、血腫予防に努めています。
鼻の乾燥感、エンプティノーズ
下鼻甲介手術が行われ始めた20世紀前半では、上図イラスト(Ⅶ)のように下鼻甲介全体を切除する方法が行われ、成功率は6-9割と高かったものの、鼻の乾燥感や鼻腔が広いにも関わらず鼻閉を訴えるエンプティノーズを訴える症例が少なくありませんでした。その後、様々な手術方法がうまれ、検証された結果、鼻の粘膜の表面をできるだけ損傷しない手術が優れていることがわかりました。もちろん、当院では、鼻粘膜の表面の損傷を最小限にする手術方法を採用しています。具体的には、粘膜下組織に高周波凝固装置を刺入させ組織を凝固変性させる方法(Ⅱ)、粘膜下組織をマイクロデブリッターや鉗子で切除する方法(Ⅲ)、下鼻甲介骨を除去する粘膜下下鼻甲介骨切除術(Ⅳ)、外側の下鼻甲介粘膜および下鼻甲介骨を除去する方法(Ⅴ)などで、鼻の乾燥感などエンプティノーズの出現が非常に少ないことが報告されています(Int Forum Allegy Rhinol. 2016, Laryngoscope. 2016, Clin Exp Allergy. 1999)。
手術時間
アレルギー性鼻炎に対する手術は内視鏡下鼻中隔手術(Ⅰ型)、両側内視鏡下鼻腔手術(Ⅰ型)、両側経鼻腔翼突管神経切除術を組み合わせて行い、およそ1時間の手術です。
手術費用
保険診療による手術です。アレルギー性鼻炎では、内視鏡下鼻中隔手術(Ⅰ型)、両側内視鏡下鼻腔手術(Ⅰ型)、両側経鼻腔翼突管神経切除術を施行し、およそ25万円(3割負担)です。別途に全身麻酔料や処方箋料などがかかります。 (手術費用の保険手数について詳しく知りたい方は「日帰り手術の費用」をご参照ください)
高額療養費制度
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月で上限額を超えた場合に、その超えた額を支給する制度のことです。年齢や所得に応じて上限額は定められています。手術を行う場合、多くの場合で、高額療養費制度を使用できますのでお問い合わせください。
(詳しく知りたい方は「高額療養費制度」をご参照ください)