鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎における「手術の完成度」と生物学的製剤の必要性の関係についての最新研究

2025.12.02

イントロダクション

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎は、好酸球を中心とした強い炎症が生じることで、鼻づまりや嗅覚障害を繰り返す難治性の疾患です。薬物治療で改善しない場合、内視鏡を使った副鼻腔手術が行われますが、術後に再発する患者も少なくありません。近年では、重症例に対し生物学的製剤が利用できるようになり、「どのタイミングで手術を行い、どの段階で生物学的製剤を組み合わせるべきか」が重要なテーマになっています。

本研究は、「どれだけ丁寧に副鼻腔手術が行われたか」を示す指標である「手術の完成度」が、術後の病勢コントロールと生物学的製剤の必要性にどのように関係しているかを調べたものです。手術治療を考えている患者にとって、治療選択の大きなヒントになる内容といえます。

研究の背景と目的

副鼻腔手術は、炎症のある副鼻腔を開放し換気を改善することで、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の症状を大きく改善します。しかし、実際には術者によって手術の範囲や丁寧さが異なり、術後成績にも差が出るとされています。

これを客観的に評価するために「手術の完成度」を数値化した指標として、「手術の完成度分類(ACCESS)」が広く用いられています。

本研究の目的は、
手術の完成度が高いほど、術後の病勢コントロールが良く、生物学的製剤が不要になるのかを検証すること
です。

研究の方法

本研究は、2018〜2022年にかけて欧州の高度医療施設で行われた後ろ向き研究です。

● 対象:再発した鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎のため再手術を受けた71名
● うち、国際ガイドラインの基準で、生物学的製剤が必要となる重症例に該当した患者は54名
● 平均年齢:54歳
● 合併症
 - 喘息:76%
 - アスピリンによる悪化を伴う例:19%
● 平均好酸球数:527/μL
● 平均手術回数:2.4回
● 手術前のCTをもとにACCESSにより手術の完成度を評価
● 術後18か月以上経過観察
● 術後の状態
 - 鼻洗浄や点鼻薬のみで安定 →「コントロール良好」
 - 再発や悪化により生物学的製剤や追加手術が必要 →「コントロール不良」

結果

54名の重症症例のうち、
45名(83%)は再手術のみで良好にコントロール。
9名(17%)はコントロール不良で、生物学的製剤(8名)または再手術(1名)が必要になりました。

最も重要なポイントは次のとおりです。

● 手術の完成度と術後コントロールの関係

  • コントロール良好群の平均完成度スコア:10.1
  • コントロール不良群の平均完成度スコア:3.7
    手術の完成度が高いほど、術後の病勢コントロールが良好であることが明らかになりました。

● 過去の手術回数との関連はなし

手術経験が多い患者でも、完成度スコアが高ければ良い経過をたどっていました。

考察

本研究は、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療において、
「どれだけ丁寧に副鼻腔手術を行うか」が術後の安定と生物学的製剤の必要性に大きく影響する
ことを示しています。

現在、生物学的製剤は非常に効果的ですが、費用や通院の負担も大きいため、まずは「十分な完成度の手術」を行うことが重要です。

また、手術後の病勢コントロールが良ければ、生物学的製剤を回避できる可能性があります。
反対に、完成度スコアが低い場合は生物学的製剤の適応となるリスクが高まるため、術前のCTで手術の見通しを立てることも大切です。

当院では、
● 高解像度CTによる副鼻腔の評価
● 技術指導医によるマイクロデブリッターを使用した全身麻酔下での内視鏡下副鼻腔手術
● 術後の定期的なフォロー
● 必要に応じて生物学的製剤の適正使用

これらを組み合わせ、患者一人ひとりに最適な治療を提案しています。

副鼻腔炎でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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